食品分析センターでは、日々各所からの依頼で食品の成分や含有物を分析し、食品の安全性を調査しています。そんな、食品の調査によって分析される成分のひとつにカリウムがあります。理科の授業などで一度は聞いたことのあるワードだと思いますが、具体的にそれが何なのかは少しわかりづらいかもしれません。
カリウムとは、どのような物質なのでしょうか。
カリウムは様々な食品に含まれる成分で、「ミネラル」と呼ばれる成分のひとつです。動物・植物に関わらず多くの食品に含まれており、私たちは日常的にカリウムを摂取しています。化学的には物質を構成する元素の一つで元素記号は「K」、周期表では19番目に位置するアルカリ金属の一種です。
単一元素である金属カリウムは、金属ナトリウムと同様非常に酸化しやすい性質を持ち、空気に触れていると自然発火する事があります。また、水に触れると化学反応を起こして水素を発生させ、爆発を引き起こすことがあるため、通常は空気や水に触れないよう鉱油等に浸された状態で保管されます。
一方で土中や私たち生物の体内にあるカリウムは、他の物質と結びつくことで安定した化合物となったものです。このように、理科の実験などでは慎重な取り扱いが求められるカリウムですが、その一方で生物が生命活動を行うためには必須の元素の一つでもあります。
人体においては体重の約0.2%がカリウムであり、これは主要なミネラル分の中ではカルシウム・リンに次いで3番目に多い数値です。
生物の体のなかでカリウムは、様々な働きをしています。例えば、細胞中に取り込まれたカリウムは、細胞内の浸透圧を調整し、酸素やエネルギー等の生命活動に必須のあれやこれやを、細胞に送り届ける働きをしています。
浸透圧がうまく働かないと、酸素やエネルギーがうまく届かないため、生物は生きる事が出来なくなってしまいます。また、脳や神経系に存在するニューロンの神経伝達にも重要な役割を果たしています。カリウムによって神経細胞同士の情報伝達が支えられ、体の組織間や組織内における情報伝達をスムーズにしています。
この情報伝達は筋肉組織を動かす際にも重要で、中でも特に重要なのが心臓の筋肉に関わるものです。カリウムは心筋の動きにも深くかかわっていて、体内で適切な濃度のカリウムが維持されることで心拍数を調整し、私たちの生命活動を支えています。
もちろん動物だけでなく、植物にとってもカリウムは重要で、植物を育てるための肥料としても使用されます。農業・園芸で使用される肥料の3要素にも挙げられており、最もよく使われる肥料成分の一つでもあります。
カリウムは生物にとって必須の元素の一つであるため、大抵の果物・野菜・肉・魚に含まれています。ですが、中でも特に多くカリウムを含む食品がいくつか挙げられています。例えば果物であればバナナ。また、最近日本でも人気の出ているアボカドも量あたりのカリウム含有量がバナナの倍と、非常に多くのカリウムを含みます。
野菜類では、芋類・豆類が豊富に含んでおり、中でもアーモンドやピスタチオは大量にカリウムを含む食品として知られています。肉や魚にも多くのカリウムが含まれており、野菜・果物類程ではありませんが、特に肉の赤身や魚の背身等、筋肉部分に多く含まれています。
そして、食品の中でも最も多くのカリウムを含むとされているのが乾物です。乾燥によって水分が抜けるため成分が凝縮され、相対的に量あたりのカリウムなどの割合が増えるためです。海藻類等も、もともとミネラル分を豊富に含む食材のため、カリウムもとても多く含んでいます。
これらは量あたりの含有量がアボカドの数倍というレベルです。
カリウムは生命維持に必須の元素なため、体内のカリウム量が極度に減少すると、体にさまざまな悪影響がでてしまいます。とはいえ、上述通り、大部分の食物にはカリウムが含まれているため、普通に生活している分には低カリウム状態になることはまずありません。
ただし、過度のダイエットや慢性の下痢によって不足が引き起こされる場合があるので、ダイエット中や下痢が続いている場合は注意しましょう。また、カリウムは体内の量が過剰になり過ぎても悪影響を及ぼす場合があります。
大量のカリウムが血液を介して心臓に入り込むと、不整脈を起こしたり最悪心停止に至る場合もある等、重篤な状態になる場合があります(余談ですがミステリー小説等では、これを利用して心臓麻痺に見せかける、というトリックが時折登場します)。
とはいえ、健康な状態であれば余分なカリウムは腎臓でろ過され、尿と共に排出されるので特に問題はありません。ただし、慢性の腎臓疾患等がある場合はカリウムが溜まりやすくなるため注意が必要です。その場合、上記のようなカリウムを多く含む食品は制限がかけられる事があります。
それ以外では、長時間体を圧迫された後などに起きるクラッシュ症候群でも、破壊された細胞から大量のカリウムが血中に流れ込む事で高カリウム血症が引き起こされることが知られています。
カリウムの分析方法には、塩酸抽出法と灰化法の2つの前処理方法と、原子吸光光度法とプラズマ発光分析法の2つの測定方法があります。塩酸抽出法は試料に希塩酸を加えて振とうする事で試験溶液を抽出する方法で、灰化法は試料を一度高熱で灰にしてから塩酸を加えて溶解する方法です。
前者は一般的な抽出法で、後者は油脂分の多い物や水に溶けづらい物、粘り気の強い物から試験溶液を抽出する際に使われます。原子吸光光度法とプラズマ発光分析法は試験溶液を分析する際に使用する機器の違いで、前者は原子吸光光度計という器具を使用し、フレーム法・ファーネス法といった方式で測定を行います。
後者はICP発行分析装置と呼ばれる装置を使用した測定法で、一度に複数種類の元素を同時に測定する事ができます。また、カリウムはイオン化干渉の起きやすい元素であるため、特に後者の方法で測定する際には干渉を防ぐための措置が取られます。
この干渉除去の方法にもマトリクスマッチング法や標準添加法などいくつかの手法があり、測定を行う試料によって手法が使い分けられています。